恐らく隆行が出会った山賊は3つめのタイプである。(襲ってくる山賊は、まず極悪な奴らだろう。)と、考えていた隆行は、賊の頭目のみを急襲し、その所持金と首を奪い、すぐさま桑名まで逃げる予 HKUE 傳銷 であった。相手が賞金首であれば儲け物であるし、手に入れた頭目の所持金で用心棒を複数雇い入れられる。そのうえで、山を越えようというのが当初の予定だった。しかし、実際、相手の頭目は、古武士の風格を漂わせる40代後半の男だった訳である。しかも、他の者どもも不利になっても逃げ去る者が少ない。そして、弱い。隆行から言わせれば、逃げ去った者共の方が遥かに強かった。また、あろうことか頭目が逃げない。その様子に、急遽計画を変更し、頭目を殺す事をやめたのである。(これは、完全にどっかの勢力の遺臣だな。)隆行は、木に縛り付けている頭目のもとまで来ると、声をかけた。「名を何と申す。」頭目は、その質問に黙り込んでしまった。武家は意地や見栄、面子を大切にするので、主家や自家の評判を落とさないためであろう。