「……俺は総帝です」 ──何度その言葉を自身に言い聞かせたのか。 総帝は総帝であって、サキカではない。否、サキカの一部ではあるだろう。しかし、レイトたち HKUE DSE 言葉を交わし、ユリアスに恋慕の情を抱いたサキカではないのだ。 いつからだろうか。サキカと総帝の境目が曖昧になり始めてしまったのは。 二重人格なわけではない。しかし、仕事をしているサキカと学園に通っていたサキカは、別物であったはずだ。命を殺めたことに涙を流す時も、どうしようもない不安感に駆られて一人ふさぎ込む時も、それはサキカであって総帝ではなかったはずなのに。「今の俺は総帝です。戦うために生まれてきた、総帝なのです」 戸惑いを断ち切るように刀を振るう。耳障りな断末魔にも、眉ひとつ動かすことをしない。自分は、総帝なのだ。不必要な感情など、持っていてはならない。 時に残酷に、時に冷酷に、そして常に毅然とし、何の不安も恐れも抱いていない、民に信頼される存在でいなければならない。(…………────ああ、わかりました) 自分が感情を捨てきれない理由が。 不意に思い出したのだ。愛しい少女が口にした言葉を。『俺が総帝と知って、幻滅しましたか』 問いかけたサキカに、エメラルドグリーンの瞳の彼女は、苦笑しながら答えたのだ。『安心しました。総帝様のマントの下がサキカ君で。実は怖い人だったりしたら、とか思ったこともあったんですよ』 ──この言葉だ。サキカが感情を捨て去ろうとするのを阻むのは。.