気がつけば、ユリアスがこちらに向かってくる気配がする。「……考えすぎ、ですか」サキカは呟いて苦笑した。――さだめに、捕らわれすぎていた。HKUE 傳銷キカはサキカとして、やるべきと思ったことをすればよかっただけなのだ。(……僕にも、幸せになる権利があるのでしょうか)窓の外に、夕日が輝いている。金色の光を邪魔するものは皆無。全ての命の根源と呼ばれし母なる海をも紅く照らし、神々しい存在感を放つそれは、たしかに今日もこの地を照らしている。今日も一日が終わろうとしている。サキカはこれまでないほどに晴れ晴れとした心持ちで、ドアを開けて入ってきたエメラルドグリーンの瞳の少女に笑いかけたのだった。翌日、空は晴天だった。××××××××××××××××××チュンチュン……チーチチチチチチ鳥の囀りが聞こえてくる。まだ、カーテンの隙間からは太陽の光は射し込んできていない。目をさましたサキカは、同室で寝ているガイアとアンドリューを起こさぬように静かに着替えて、宿を出た。風邪はすっかり治ったらしく、身体は軽い。早朝の街は、静寂に包まれていた。宿から暫く歩いたところで、広場を見つけた。地面は南の国特有の黒い土で、しかし強く踏みかためられている。周りに人気はなく、広場を囲うようして立ち並んでいる店は、全て閉まっていた。魔力の鍛練は見られてしまうとごまかすのが大変だが、刀の左手での鍛練だけならできるだろう。サキカは、文化祭の後夜祭のときに学生のサキカとして使用することに決めた魔武器【白龍】を喚び出した。純白の刀――【白龍】は、サキカの左手におさまる。右手で鞘を握り、左手に柄を握って引き抜いた。真っ白な刀身が、暗闇に浮かび上がる。.